
izaraiのThru Outを活用して自宅で出来る「Cuebox」を作ってみよう
前回の記事では、モニターコントローラー「izarai」のThru Out端子を使ってVUメーターを接続する方法を紹介しました。今回は、レコーディング時に演奏者が自分のモニターバランスを調整するために必要な「Cuebox」の作り方を解説していきます。
Cueboxとは?
Cueboxとは、レコーディング時に演奏者が「トラック(カラオケや他の楽器)」と「自分の演奏」を一緒にモニターするための小さなミキサー環境のことです。クリック音や自分の演奏、他のパートのバランスを手元で調整できるようにしています。
Cueboxの役割
Cueboxの役割は以下の2点です。
• クリックや自分の演奏の返し、その他の楽器(ドラム、ベース、ギター、ピアノなど)をまとめて手元でバランス調整する。• 演奏者が自分に合ったモニターバランスで快適に演奏できるようにする。
本格的なスタジオでは上記写真のような専用の機材で対応できますが、自宅録音では小型のオーディオミキサーで代用する事が多いです。
DAW内で完結させる場合との違い
多くの自宅スタジオでは、DAW上でバランスを整えた2Mixを、そのままオーディオインターフェースから出力し、演奏者がヘッドホンでモニターしながらレコーディングを行うのが一般的だと思います。
しかし、これでは演奏者自身がオケ(伴奏)やClick、自分の演奏のバランスを調整できないというデメリットがあります。
たとえ音質が良くても、自分の演奏やクリックが聴きづらいと、演奏者は快適に演奏できません。良い演奏を引き出すためにも、演奏者がある程度自由にバランスを調整できるCueboxが必要です。
Cueboxを準備するのに必要な機材
1. 4ch以上出力が可能なオーディオインターフェイス
Cueboxの環境を作るのに、高価で多入力のオーディオインターフェイスを用意する必要はありません。Outputが4つ以上ある一般的なオーディオインターフェイスで大丈夫です。
※この記事では「Scarlett 4i4」を参考に紹介しています。
2. 4ch以上が入力可能なオーディオミキサー
演奏者が手元で操作するミキサーです。こちらも大きなミキサーは必要なく、モノラルch×2 + ステレオch×1など、合計4入力があれば大丈夫です。
※この記事では「Mackie 402VLZ4」を参考に紹介しています。
3. 密閉型ヘッドホン
演奏者のモニター音がマイクに回り込みにくい、しっかり密閉できるタイプを推奨します。
izaraiのThru Outをスプリッターとして活用する

「izarai」は、モニターコントローラーとしては珍しくThru Out端子が搭載されています。
本来、VUメーターを接続するための端子ですが、今回はこれをCueboxに使うことで、オーディオスプリッターの代わりにできます。
なぜThru Outが便利なのか?
Thru Out端子は「izarai」のボリュームポッドの影響を受けず、入力されたレベルのまま出力されるのが特徴です。
もし「izarai」がなければ、スピーカー出力(Output 1-2)とは別に2ch分のオーディオインターフェイスのOutputをしようすることになってしまいます。
こうした理由からも、シンプルな構成を目指すなら「izarai」のThru Outが大いに役立ちます。
今回ご提案するCueboxのシステムの図は以下の通りです。

1. 「izarai」のThru Out → 小型ミキサーのステレオchへ(青)
演奏者はこのchでオケ(伴奏)の音量を調整します。
2. 「Click(クリック)」の出力 → ミキサーのモノラルchへ(赤)
オーディオインターフェイスの3chから出力し、ミキサーのモノラルch(1)に入力します。演奏者は先程のオケとクリックのバランスを聴きやすいように調整します。
3. 「自分の歌(演奏)の返し」 → ミキサーのモノラルchへ(黄)
オーディオインターフェイスの4chから出力し、ミキサーのモノラルch(2)に入力します。演奏者はマイクを通した自分の音を確認すると共に、他のトラックと同じように自分の演奏しやすいバランスに調整します。
自分の演奏だけが遅れて聞こえてしまう
まだ、この状態ですと自分の演奏の返しだけが遅れて聞こえてしまいます。
ですが、ご安心下さい。この症状はオーディオインターフェイスの「ダイレクトモニタリング」機能を使用することで解決出来ます。
レイテンシーとダイレクトモニタリングとは?
実際の演奏と、ヘッドホンから聞こえてくる自分の演奏が遅れてしまう原因。
オーディオインターフェイスを使用してDAWに録音を行う場合、下記の図のように、DAWを通った音声を聞いてしまうと実際の演奏よりも遅れて聞こえてしまう症状が起こります。これを「レイテンシー」と呼びます。

入力された音声は、DAWを通った後のものをリアルタイムでモニタリングしようとするとレイテンシー(遅れ)が発生します。これは、コンピューターを使用して録音を行う上でどうしても起こってしまう症状です。
これを解決する手段の1つとして、ほとんどのレコーディングスタジオに常設されている「Avid ProTools HDXシステム」を使用すれば、レイテンシーのない環境で録音を行うことが出来ます。
しかし、総額100万円以上になる為、自宅レコーディングには現実的ではありません。

自宅でも遅延のない環境を構築するには?
では、自宅での録音では、このレイテンシーを受け入れなければならないのか?というわけではありません。工夫次第で、自宅でもレイテンシーの無い環境を構築出来ます。
そこで必要になってくるのが、オーディオインターフェイスに付属している「ダイレクトモニタリング機能」です。
ダイレクトモニタリング機能を使えば、入力されたマイク信号をDAWに送りつつ、自分の演奏をほぼ遅れなくヘッドホンやアウトプットへ返せるため、違和感なく演奏できます。
※ダイレクトモニタリング機能の設定方法は、お使いのオーディオインターフェイスによって異なりますので、マニュアルをご確認の上、設定して下さい。

また、ダイレクトモニタリングの設定は、ミキサーへ送る音声信号だけでなく、ご自身のヘッドホンにも聞こえるように設定を忘れないで下さい。この設定をしないと、録音中に演奏者の声が自分のヘッドホンから聞こえなくなってしまいます。
レコーディング時のDAW側の設定
ここではDAW「Logic Pro」を使用して、実際に録音時に必要となる設定を紹介していきます。

1.オケ(伴奏)はすべて「Output 1-2 (Stereo Out)」へ出力(青)
演奏者が聞くオケ(伴奏)は、「Output 1-2 (Stereo Out)」に設定をし、演奏者とコミュニケーションをとりながら、各トラックのバランスを取っていきます。
2.Clickトラックは「Output 3」へ出力(赤)
Clickトラックの出力を「Output 3」に設定します。今回の例では、DAW純正のClickを使用しました。演奏者によっては好みの音色が異なるため、カウベル等のオーディオも用意しておくのも良いと思います。
3.録音用(Rec)トラックは遅れた信号を聴かないようにする為「Mute」に設定します。(黄)
録音用(Rec)のトラックは、「Mute」ボタンを有効にしておきます。これを外してしまうと、せっかくダイレクトモニタリングで設定した音声と、DAWを通過して遅れた音声が混ざってしまいます。
「Mute」ボタンは、録音後の演奏をモニタリングする時にのみ外して下さい。
※DAWによって設定方法は異なりますので、各DAWのマニュアルを参照し、ご自身がやりやすいように調整してください。
エンジニア(クリエイター)側のモニター環境
今回は、エンジニア兼クリエイターと演奏者が同じ部屋にいることを想定しています。
そのため、スピーカーは使用せず、オーディオインターフェースのヘッドホン出力でモニターしましょう。「izarai」は、Muteボタンを押すだけでスピーカー出力を簡単にオフにできます。
Thru Outの信号はMuteの状態でも常に流れるため、レコーディングのたびに配線を変更する必要もありません。

izaraiで制作時もレコーディング時もスムーズに
今回は、「izarai」のThru Out端子を活用してCueboxを構築してみました。
パッシブタイプのモニターコントローラーは、電気回路を積まないため機能的にシンプルな製品が多いですが、「izarai」のThru Out端子は様々なことに活用が出来ます。
モニターコントローラーは、スタジオ環境の心臓部ともいえる存在です。もし、今の環境の音質やオーディオインターフェイスによるボリュームコントロールに不満を感じているのなら、一度「izarai」を試してみてはいかがでしょうか?
製品の詳しい内容はこちら
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