
レコーディングエンジニア「川澄 伸一(Mixer's Lab)」モニターコントローラー「izarai」の使用感についてお伺いしました。
ー 本日はお時間を頂きありがとうございます。まず、川澄さんのご経歴について簡単にお伺いさせて下さい。
川澄:高校卒業後、蒲田の日本工学院音響芸術科を経て、卒業半年後に学校の紹介で、日本コロムビアスタジオにてアシスタント業務を始めました。そちらで5年ほどお世話になってから、(株)ミキサーズラボに入社しました。
その後、Mixer's Labにてエンジニアとなりキャリアを重ねて行きました。現在はMixer's Labには業務委託というかたちで、引き続きお世話になっています。また母校の日本工学院で、非常勤講師として後輩に授業をしています。
ー 川澄さんは「角松敏生」さんの作品に多く携われていますが、いつ頃からご一緒にお仕事をされるようになったのでしょうか?
川澄:角松さんとはMixer's Labに所属してからのお付き合いで、30年以上経った現在も作品の制作に携わらせていただいています。
ー 川澄さんのキャリアですと、「ProTools」が登場するよりも前からエンジニアとしてレコーディングにミックスと多くの作品に参加され、海外でのレコーディングも経験されていると思いますが、現在の制作環境と比べて如何でしょうか?
川澄:私が業務を始めた頃は、まだアナログテープレコーダーも併用していましたが、すでにデジタルマルチトラックテープレコーダーが導入されていて、暫くの間使用されていました。その後「Pro Tools」システムが普及して行きました。「ProTools」の普及に合わせて自宅での作業が可能になりました。
ー レコーディングスタジオの環境が変わっていく中で、現場でのモニターコントロールにはどういった変化がありましたでしょうか?
川澄:スタジオでのモニターコントロールは、そのスタジオのコンソールで行います。私は主に「SSL」社のコンソールを使用していました。SL4000Gのメインモニターのツマミは“カリカリ”っと回ってアッテネート式のようでした。
Pro Toolsの普及とともに増えた小規模スタジオや自宅スタジオなどでは、コンソールのモニターセクションのみを抜き出した様な製品「モニターコントローラー」を使用するようになっていきました。ただそれらの「音質」を気にするようにもなりました。
”スタジオ以外でのモニタースピーカーの取扱いとしてモニターコントローラーを使用する”

ー それでは次にご自宅の環境についてお伺いさせて下さい。
川澄:以前は殆どのスタジオと同じAvid社の「HD I/O」を長年使用していましたが、最近「Pro Tools Carbon」 を導入し自宅作業をしています。
「Pro Tools Carbon」のLineOut1-2 から ProToolsの音声を「izarai」のInput Aに。Input Bにはアナログミキサーにその他の入力機器を接続し「+4db」のOutから接続しています。
このアナログミキサーには「Pro Tools Carbon」のMonOutからMacの音声も立ち上げています。これはProToolsを立ち上げている際にApple MusicやYoutube 等の音を聞けるようにする為です。
モニタースピーカーはOutput Aに「Genelec 1031A」を。Output Bには「Sony ZS-M5(ラジカセ)」にも繋がってます。

ー 自宅では主にどのような作業を行われていますでしょうか?
川澄:初めは簡単な編集作業やミックスの仕込み作業などをやっていましたが、次第にミックスまでやるようになりました。ミックスとなると、やはりモニター環境にも気を配る必要があります。スピーカーは持ち歩いているのでスタジオ環境と同じですが、「HD I/O」を使用するとなるとモニターコントローラーをどうするかという問題が出て来ます。
ー Avid社の「HD I/O」はモニターコントロールの機能なども付いていませんでしたから、当時は「HD I/O」を導入する場合はモニターコントローラーを何にするかというのも選択をしないといけない時代でしたね。
川澄:編集作業ではある程度ボリュームがコントロール出来れば良かったので、当初はいわゆるコンシューマー向けのミキサーやアクティブタイプのモニターコントローラーでモニターしていました。
色々と使っていましたがモニタリングの精度に中々満足はしてはいませんでした。ましてや、スタジオとの音の互換性が自分の中で把握することが困難で、そんな中で自宅でミックスをする時は、オーディオインターフェイスから直にスピーカーにつなぐのが、一番スタジオに近いのでは?と考えました。
「Pro Tools」のマスターフェーダーで直接モニターコントロールは支障があるので、モニターコントロール用につくったAUXトラックに、マスターフェーダーの信号をBusで送り、このAUXトラックを直接スピーカーでモニターして、フェーダーでボリュームをコントロールするようにしました。
ー 「ProTools」のMasterトラックでの音量コントロールは特に問題はありませんでしたでしょうか?
川澄:DAW内で音量をコントロールしようとすると常にデジタルの演算が入るので、音量コントロールする度に厳密に言えば毎回音が少し変化してしまいます。
確かにこの方法は音質的には良かったのですが、モニター音量を上げ下げする度にこの変化が頻繁に起きているとなると・・・ちょっと不安になり辞めました。
ー DAW内部でマスターボリュームのコントロールを行うと、どうしても生じてしまう問題ですね。。。
高額のモニターコントローラーであっても音が”メーカー特有の音”に変わってしまう
ー Avid社の「Pro Tools Carbon」にもモニターコントロール機能が付いておりますが、そちらの方は如何でしょうか?
川澄:「Pro Tools Carbon」は、2系統のアウトプットを使用出来るので、Mac本体の音のアウトプットをモニターコントロールアウトに、Pro Toolsの音は1-2アウトで直接モニターするように、使い分けています。非常に便利ですね。 音質的に問題なく、切り替えが瞬時に出来るモニターコントローラーとなると高額で、また多機能な製品はアクティブ回路になっている物が多いです。使用しているオーディオインターフェイスの音質がそのメーカー特有の音に変わってしまうことも多いので、なかなか導入出来ないでいました。
そこで目をつけたのが、パッシブタイプのモニターコントローラーです。
アナログの音は「如何に音を劣化させない」かが大切。そこに如何に投資をするか。
ー あえてパッシブタイプのモニターコントローラーを選択された理由をお伺いさせてください。
川澄:いわゆる電気的な増幅器が無いのと音質変化が少ないという特徴ということで導入しました。初めは2〜3万前後ののパッシブタイプのモニターコントローラーを使用をしていました。
ー インターフェイスから直接スピーカーでは無くモニターコントローラーを挟んだ場合の音質変化についてもお伺いさせて下さい。
川澄:まず、自分の学生にも伝えて来ていることですけど、アナログの音は「如何に音を劣化させない」かが大切です。デジタルは補正が出来るけれども、アナログは一度劣化したものは復元出来ないのでそこに如何に投資をするということが重要だと思います。
ー ものすごく大切な考え方ですね。
川澄:今回使わせていただいた「izarai」は、それまで使用していたパッシブ式のコントローラーよりも、音質的に素晴らしいと感じました。スピーカー直結と遜色なくて、これはいいなぁ!と。パーツに相当こだわっているのがよくわかります。
自分の環境において”信用出来る音”になったというのが第一印象です。
ー 今まで使用していた製品から「izarai」を導入してみての感想をもう少し詳しくお聞かせ下さい。

川澄:ひとことで言うと自分の環境において”信用出来る音”になったというのが第一印象です。
今まで使用していた製品はパッシブタイプとはいえ、アッテネーター式ではなくボリューム式だったので、比較すると音質、モニター精度が断然良くなりました。
アッテネートされた各ポイントでも違和感は感じませんでした。
モニター精度とは、いわゆるセンターポジションがブレないかということなのですが、こちらも各ポイントで全く問題ありません。
自宅での確認なので、超低域や超高域の部分までは確認出来ませんが音質劣化と言いますか、私の自宅環境ではスピーカー直結と比較しても遜色ありませんでした。
これだったらスタジオと自宅の間での、モニターの音質的な互換がおおよそ保てるなと思いました。
ー 「izarai」を導入する上でここは押さえておいた方が良いという部分を教えて下さい。
川澄:パッシブ型という方式は、音声信号をアッテネートすることでモニターレベルをコントロールするので、基本的に増幅はしません(というより出来ません)。
ツマミの位置について初めは戸惑うと思うのですが、いちばん右に回し切った状態(0)がアッテネートされない状態となります。この状態で結線して音を出した時に「小さい」となってもそれ以上は大きくなりません。
使用法としては、まずツマミをどのあたりで使いたいか決めます。私の場合は、2時ぐらいポジションは[-28]です。
この状態で音を出して、聴きたいレベルをスピーカーのアンプボリュームで調整してください。
ー 「izarai」をオススメするとしたらどんな方に向いていますでしょうか?
川澄:「izarai」 は、高精度なパッシブタイプのモニターコントローラーです。パッシブ型は中々選択肢の少ない中で、業務でも使用可能な製品だと思います。
なので、現在のモニター環境に納得されていない方々、特にプロの方々にぜひオススメしたい製品です。
ー 本日はありがとうございました。
PROFILE 川澄 伸一

ENGINEER / Tokyo
所属:株式会社ミキサーズラボ
1985年 日本工学院専門学校音響芸術科03期卒業
1985年(有)放芸企画契約社員 日本コロムビアスタジオ出向
1989年(株)ミキサーズラボ入社
2002年 日本工学院専門学校 講師(継続中)
2007年(株)ミキサーズラボ業務委託
2017年 特定非営利活動法人日本レコーディングエンジニア協会副理事長就任 現在に至る
Work List
相川七瀬、青木智仁、安倍なつみ、矢島舞美、彩魔、杏里、池上ケイ、 石川絵理、石川さゆり、いしだ壱成、伊勢正三、市村順平、今井美樹、 尾崎亜美、梶芽衣子、加藤吉彦、角松敏生、川江美奈子、河村隆一、 神奈延年、久嶋美さち、神田愛美、堺すすむ、下地勇、下地暁、鈴木雅之、 鈴木美穂、瀬木貴将、ソウル堂、チアキ、千秋、小さいLAPIS、東京プリン、 トシタロウ、鳳山雅姫、永井隆雄、中江有里、中谷隆博、夏川りみ、凡子、 ナナムジカ、西田敏行、西田ひかる、沼澤尚、 パパイヤ鈴木とおやじダンサーズ、氷室京介、ピンク・レディー、布施明、 藤原正紀、本田雅人、前川清、三浦浩一、水瀬あやこ、宮内タカユキ、 宮本文昭、村上ポンタ秀一、室井滋、森、矢井田瞳、又紀仁美、吉沢梨絵、 吉田朋代、米光美保、AGHARTA、AION、Ajan-st.、ANNA、BAKU、D&D、 DEAD EYED SPIDER、DJ KRUSH、duke、ERINA、Folder、FUNNY GENE、 GEENA、INSPi、JIMSAKU、KAN、KONTA、Licca、Linda、MAOCHICA、 Shela、SURFACE、Synchronized DNA、TOKIO、TOSHI、Vicky Vee、 VOCALAND
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